SFマガジン 1969年11月号

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目次

して、月面物質を顕微鏡で徹底的に捜した はるかに鮮明で、火星の「運河」が実はクレークー が何も見つからなかった。したがって発見供 群の見あやまりであったらしいことなども判った された有機物質は、地上のものが混人したト が、同時に学者たちのあいだで、その光景が「月よ ものにちがいないといって、同紙の記事を フ りはやはり地球にちかい」という意見を持つものが 否定した。また同博士は、月面物質を注射 増え、論争が始まった。さらに、議論は、マリナー 冠 した二十四匹のハッカネズミを解剖したル 6 号 7 号の、大気組成についてのデータの喰いちが 極 の が、内臓その他に、有機物質があれば当然ワ いからも起こった。大気の濃度は、赤道付近で最大 星 起きたであろう変化が全く一認められなかっド くル、一〇〇〇ミ リ・ハールの地球と較べ一 イ たことも明らかにした。 た一一五分の一以下とますます稀薄なことが確かめられ ジョンソン博士もやはり同意見で、月面 さ一たが、問題はその組成、で 6 号の紫外線分光器の観 影 物質から発見された有機物質は、宇宙飛行 測によると炭酸ガス、一酸化炭素、水素、オゾンは 士がサンプルをとったとき、器具に付着し 接検出されたが、窒素、アンモニア、水蒸気のスペク 近一 ていた脂がまじったか、月試料研究所でサ トルは見られす、これで生命の存在は決定的に否定 ン。フルを処理したとき、真空室のゴムの油 されたと思われた。い うまでもなく、それらは生命 がまじったかのいずれかだろう、といった の発生に不可欠のものだからた。ところが翌日 7 号 のだ。 の送ってきたスペクトル分析の結果は、意外にも極 かくて、月面生物説は簡単に葬り去られ 冠付近の大気中にアンモニアとメタンガスの存在を た感があるが、予期していたこととはいえ、宇宙空間に生命の発生する条件示してきたのだ。・これについてカリフォルニア州パサデナのジ = ット推進研 の難しさを、ひしひしと味わわされた一幕ではあった。 究所の科学者たちは、マリナー 7 号の測定を支持し、赤外線分析担当のカリ さらに、こうした話が人々の関心をひきつけていた同じ頃、去る七月三 フォルニア大学のビメンテル教授は、「これらの化合物が生物の起源のもの 十、三十一日の両日あいついで火星に最接近 ( 約三四〇〇キロ ) した無人探であると考えてもおかしくはない」と言明。またホロビッツ博士は「生物は 測器マリナー 6 、 7 号から送られてきた火星表面のクローズアップ中継九九パーセントいないかもしれないが、あとの一。 ハーセントを目指してわれ と、精密な観測器械による火星大気の組成のデータや極冠の様子をめぐっわれは研究を続ける」といった。 て、火星に生命があるかという議論が再燃した。 生物の起源をさぐるというむすかしいが最も本質的な重要性をもっ研究に ます写真は、火星表面が月面によく似た、クレーターの多い荒涼たる容貌とって、たしかに同博士のような研究態度こそ、もっとも望ましいものだろ を持っことを再確認させたが、五年前マリナー 4 号が電送してきた写真より うーー・・生命の存在が確証できるかでぎないかはともかくとして。 7

月への到達、月の岩石の採集、そして無事帰遠という、人類史上初の壮挙イムスが「アポロⅡ号が持ち帰った月のチリから有機物質の兆候が発見され をみごと成し遂げた、アームストロング、オルドリン、コリンズ三宇宙飛行た」という記事を載せ、この問題に関心を持っ入びとを興奮させた。 士が、この八月十日、帰還直後ただちに収容されていたヒューストンの人間 同記事によると、月試料研究所で月の岩石とくに鉱物標本を分析していた 宇宙船センター号館月試料研究所の検疫隔離室を解放され、それそれの自科学者たちが、一一回にわたって、有機物質の兆候を発見した。一一向とも百万 宅に帰った。十七日間の隔離期間中、厳重な医学的生物学的テストを探り返分の百一一十 ~ 三十という極微量だったが、いずれの場合も、石沖系の炭化水 した結果、三人が「月面で危険な細菌や有害なビーノ レスの汚染を受けていな素たったのである。炭化水素は、カーポナセウス・コンドリテスなどの隕石 いことがはっきりした」からである。この一「ユースは、もちろん、三宇宙飛中にごく稀に発見されるような特殊な場合を除けば、原則として、生物のメ 行士のためには喜ばしく、万が一の危険を恐れていた人たちにとっては胸をタポリ払を媒介としてでなければ存在しない。したがって、月面物質か 撫でおろす朗報だったとーー同時に、もしゃ月面に生命の存在が、あるいはら、たとえどんなに極微量でもそれが発見されたということは、「月面上 過去に存在した痕跡が、見つかりはしまいかと考えていた人びとには、一種で、生物体の内部で起きているのと同じような有機化合物の合成過程があっ たもの」と考えられたわけでもある。ニューヨーク・タイムズは、さらに、 微妙な失望を抱かせるデリケートなニュースでもあった。 もちろん、月に常識的な意味での生命の存在しないであろうことは、とう この実事から、月が過去のある時期に生物の発生にとってもっと良好な環境 に予測されていた。だが、最近、・ハクテリアやウイルスの強靱なーー想像をを持っていれば、そのまま生命の出現に結実したかもしれない化学進化の。フ 越えた生命力が明らかにされて、万が一にも月面あるいは月の地表下の岩石ロセスを持ったことがあるのではないか、と推論していた。 中に、月の環境に適応した独特の発生と進化をした微生物がないか、あるい これは、確かに、驚くべきニュースだった。実際、いままでにも、宇宙に は過去において存在した痕跡が、化石として、あるいは死骸のかたちで存在おける他の生物の存在の証拠として、しばしば、隕石中から発見される炭化 していないかということが、真剣に討議されるようになった。アポロ宇宙船水素が論議の的になってきた。そして、そうした議論は、それが、本当に宇 の月面到着にあたって、素人目にはオしハ冫、 ーこ過ぎると思われるほど厳重な宙空間にあったものか 1 それとも地球に落下してのち付着したものかをめぐ 検疫処置が金に糸目をつけず取られたのも、そのためだった。 って、戦わされるのが常たった。だからもし月面物質に炭化水素が発見され 宇宙飛行士たちの月面からの報告や、持ち帰った月の岩石の研究、さらにれば、宇宙空間にも、命の発生へと進む有機化合物の合成プロセスが、か は月面に設置した地震計の測定結果などから、月はしだいにその謎の正体をなりしばしばあるということの証拠になるわけだ。 明らかにしていった。そして、さらに、月の「海」がかって本当に水をたた : このニュースに胸をときめかせた者は、すぐに失望を味わわされ えた海であったのではないかという仮説も、多少の大気を保っていた時期がた。この報道に対してただちに、カリフォルニア大学のショーフ博士、アー あったのではないかという臆測も、ほとんど否定される結果となり、月の生ムス研究センターのジョンソン博士、マサチューセッツ工科大学のビーマン 命についての期待は、ますます望みがなくなってきた。 博士らが反対意見を発表したのだ。 ところが、こうした論説が交されつつあった八月七日、ニューヨーク・タ ショーフ博士は「月面には生物も、その死体も化石もなかった」と前置き 新連載 = エンス ~ シャしナル、月と火生の命論争・ 福… . 島正一実 , 6

福島正実 物理学入門 NOVEMBER, 1969 , VOL• 1 0 , NO. 1 2 S F マガジン 11 月号 ( 第 10 巻第 12 号 ) \ 220 昭和 44 年 11 月 1 日印刷発行発行所東京都 千代田区神田多町 2 の 2 郵 1 0 1 早川書房 TEL 東京 ( 254 ) 1551 ~ 8 発行人早川清 編集人森優印刷所日東紙工株式会社 ワールズ・オプ・イフ SF 誌特約 表紙岩淵慶造 目次・扉中島靖侃 イラスト金森達 真鍋博中島靖侃 岩淵慶造斎藤和明 おばあちゃんの嘘つき石鹸 新連載Ⅱ美術館【 2 】ヴァン」ドンゲン登場【 サイ = ンス・ジャーナルⅡ月と火星の生命論争 【ロ】第七章宇宙の果ての物語 特別連載カラー・ファンタジイをコ、、、ツク 石森章太郎 ( セプン・ビー ) その 3 ・ガい ( ( ルにチャベックに、 《日本〉石川同司 ^ 海外〉福白新正実 新・ cn でてくたあ 伊藤典夫 V-V スキャナー 大伴日日司 トータル・スコープ 。、レノフ 2 エメレイ・ ″日本亠冗りますソ連版日本アンソロジー序文 。、レサーの謎をし力に解く : : : : ・ 5 太陽系外の太陽系 : 世にも奇怪な底なしのサンド・ポックス てれぽーと 人気力ウンター さい、んんオ・・とびつくオ・ 世界みすて 「ーレ」びつ / 、 今月のカラ ー , ・、 / ョート、ンヨート ロ ート・アハーナシイ 野田宏一郎 福島正実 石原藤夫 1 1 5 156106110